この町 おさんぽコラム 10号”ハクモクレン”

就職活動をひかえた大学三年の春休み、この町を友人と散歩しながらこんなことを話し合いました。「もし二人とも職が決まらなかったら、お笑い芸人になろう」と。そして「コンビ名は……」と満開のハクモクレンを見上げて「モクレンズ、だね」。

「モクレン」は、白い花のハクモクレンや紫色の花のシモクレンなどの総称です。なかでも十五メートル以上の高さになるハクモクレンは春の花木として印象的です。つぼみのうちは、たくさんのゆで卵が枝のすみずみまで乗っかっているようでかわいらしく、また、厚みのある花びらが一斉に開くと、そのかぐわしさもあいまって、焦りをおぼえるくらいに圧倒されます。

さて、前述の二人ですが、夏になるころには、私は駆け出しのイラストレーターとなり、友人も無事に企業から内定をもらいました。かくしてお笑いコンビ「モクレンズ」は幻となりましたが、この時期のハクモクレンを見ると私は、現実逃避したくなるほど不安のほうがずっと大きい若者の心を思います。

2017年2月町内会だより この町おさんぽコラム ハクモクレン

文・画 村山尚子

投稿:@広報部