この町おさんぽコラム35号” カナヘビ”

 

 暦の上の「啓蟄(けいちつ)」は「気候があたたかくなってきて、冬ごもりしていた土の中の虫が外に出てくる日」とされ、今年は三月六日に当たります。虫だけでなく、トカゲの仲間のカナヘビも外に出てきます。

この町でも庭先や道路でよく見かけられるカナヘビ。夏には人の足音が聞こえただけですばしこく逃げますが、啓蟄のころは、寝起きなのとまだ寒いのとで、ぼーっとしており、動きも緩慢です。

陽だまりで寝ぼけているカナヘビの前に、私はそっと手を差し出します。すると、ぬくもりに引き寄せられるように、カナヘビはそろりそろりと手に乗ってきます。そして「はぁ、ここはあったかいなぁ」としばらく心地良さそうにしていたかと思うと、だんだん下まぶたが上がってきて、ついには二度寝を始めてしまいます。その寝顔は愛らしく、私の手に触れるカナヘビの細くて冷たい指があったまるまで、ずっと眺めていたくなります。

この町おさんぽコラム 35号 カナヘビ

– 文・画 村山尚子 –

投稿:@広報部