要石NO.7
今回から数回に分けて、玉川学園自主防災連合体(前回の要石を参照)の会議体である自主防災隊長会議が中心となり作成を進めている「玉川学園・東玉川学園地区防災計画」についてお話しします。
【地区防災計画とは】と【作成中の地区防災計画について】は、町内会だより9月号の要石に掲載済みです。既に、ご覧の方は、【対応する災害】からお読みください。
【地区防災計画とは】
過去の事例からも明らかですが、公助(国や自治体などの公的機関による援助)には限界があります。そのため、災害対策基本法において自助、共助の重要性が指摘され、住民による地区防災計画の作成を推奨しています。地区防災計画は、この共助の実現性を高める目的で、住民自らが、自分たちの命や自分たちのまちを災害から守るための行動や備えなどを文書にまとめたものです。内閣府がまとめた地区防災計画ガイドラインによれば、地区防災計画は、最初からすべてを盛り込むのではなく実行できるものから盛り込むことが推奨されています。
【作成中の地区防災計画について】
目標とする地区防災計画には、
- 地域組織や住民自らの役割
- 地域の特性:地勢、住人の意識・行動、気候気象による影響、対象となる災害の性質とその被害想定、地域コミュニティなど
- 発災以降の取り組み:発災直後の行動(自助)、被災状況の確認、安否確認、救出・救護、医療機関への搬送、出火防止、消火、避難誘導、避難行動要支援者への支援、パトロール、避難施設の開設・運営支援、在宅避難者のとりまとめ、在宅避難者支援など
- 発災に備えた取り組み:体制、資機材・物資・マニュアル・帳票類などの備え、地域住民の防災力の高揚を目的とした防災意識の啓発や各種訓練、防災リーダーの育成、地域組織や地域コミュニティとの連携、ご近所コミュニケーションの活性化
などが記載される予定です。
昨年度から進められている地区防災計画作成作業において、現在、地区防災計画(案)として、地域組織や住民自らの役割、地域の特性の一部、発災以降の取り組み、防災リーダーの育成、地域組織を俯瞰するのタイムラインなどが文書化されています。
今年度、各活動の手順書や発災に備えた取り組みを中心に文書化を進めて、今年度末には、初版の発行を目指しています。
【対応する災害】
温暖化による気候変動や気象異常により災害が増えています。しかし、観測技術の進歩によって、これらの災害については、発生時期や被害規模が事前に通知できるようになりました。更に、公的機関の指示に従って事前に避難することも可能になりました。
一方、震災は、発生時期も規模も予想できません。事前の避難は不可能です。更に、震災などの大規模災害では、公助の遅れが予想されています。従って、地区防災計画においては、公助が期待できない震災を対象とし、住民が互いに助け合う共助・自助の活動を中心に記述することになりました。
【地域の特性】
玉川学園・東玉川学園地域は、多摩丘陵の中にあり、丘陵と低地に分けられます。多摩丘陵の丘陵部はローム層が厚く覆っています。
この地のローム層は、主に箱根火山、富士山などの火山砕屑物が堆積し、その後、長い年月にわたり風化などにより火山灰が巻き上げられ、再び降り積もってできた地層です。
《丘陵部の特性》
ローム層は、団粒構造を持ち地耐力または強度、耐食性が強いといわれています。しかし、掘削などによってこの構造を壊すと軟質となり地耐力または強度が低下します。また、浸食(水による分散)を受けやすくなります。従って、宅地造成で行われる盛り土に対して十分な対策が必要となります。2000年の建築基準法改正では、耐震基準のレベルアップにより実質的に地盤調査が必須となっています。
玉川学園・東玉川学園地域では、傾斜地に建てられている建物がほとんどで、防災上、盛り土の問題は避けて通れません。また、ローム層は水を含むと強度が著しく低下します。今年、町田市相原で大規模な土砂崩れが発生しました。温暖化による気候変動や異常気象の結果、多発する集中豪雨や局地的大雨の影響は、耐震性にも大きく影響します。残念ながら、2022年の東京都による首都直下地震の被害想定には、集中豪雨や局地的大雨がもたらす地盤の地耐力または強度低下は加味されていません。従って、地震発生時に温暖化による気候変動や異常気象の影響が加わったときは、想定以上の被害が予想されます。
《低地》
低地は、雨や多摩丘陵に多い湧水により丘陵が浸食され、流れ出た土砂や植物片が厚く堆積した地域です。宅地化される前は、小川や沼沢地があった場所です。この地域は、地耐力または強度も低く、浸食されやすい。震度(揺れの強さも)も増大する傾向にあります。
【地域の危険度および被害想定】
玉川学園地域の一部は、木造住宅密集地域や準防火地域に指定されています(下図)。 玉川学園地域は、丘陵地であるため坂道が多く、宅地化された時代も古いため、道路幅も狭く、古い住宅が多く存在します。更に、地域全体を見回しても、大型の消防車両が入り込めない場所が多数存在します。このように、この地域は、消火活動がやりにくい土地柄です。従って、玉川学園地域は、先に述べた盛り土の問題や低地の課題と次に述べる延焼火災の問題を抱える地域といえます。
【地震火災による延焼被害】
大きな地震では、様々な原因で火災が多発します。その多くは、電気系統からの出火です。また、冬場であれば、暖房器具からの引火が多く見られます。余震時では照明のための蠟燭が原因となることもあります。首都圏では、道路上に多数の車両が往来しており、車両の衝突により出火するケースも想定されます。出火のタイミングもまちまちです。阪神淡路大震災では、電力復旧の際の通電時にも火災が多発しました。
地震の影響で、消防機関による消火活動が著しく低下する傾向にあます。町田消防署が保有する消防車両はもともと少ないため(ポンプ車が11台)、多発する火災には対処できません。消防の広域化により平時であれば、近隣の消防組織からの支援も期待できますが、首都直下地震のような広域的大規模災害においては、それぞれの地域での消火活動にリソースが取られるため、地震被害の少ない遠方からの支援となります。また、地震による道路閉塞や震災地域から脱出する人と車、帰宅する人と車で出動が妨げられることもあり、短時間に現場にたどり着くことは困難です。
2022年5月に東京都は、10年ぶりに首都直下地震の被害想定を見直し、公表しました(以下、新被害想定と称し、これまでの被害想定を旧被害想定と称す)。新被害想定の中で、玉川学園地域は、多摩東部地震による延焼被害が町田市中で最も多く(焼失率もワースト1位)、多摩地域でも最も危険な地域の一つとなっています。
【地震被害】
過去の大震災の分析から、地震による死傷者の多くは、建物や塀などの倒壊や家具等の転倒・移動・落下、地震火災によるものが大半を占めています。地震史の中では、都市部で発生した阪神・淡路大震災から得られる教訓は多くあります。
下のグラフは、神戸市の記録で、救出された人の中の生存者の推移を、発災日から5日間について示したグラフです。この大地震は、平成7年1月17日5時46分に発生しています。地震が発生した初日に救出された方の内75%が助かっています(赤の折れ線グラフ)。二日目、三日目と日を追うごとに生存者の割合が急激に減少しています。
阪神・淡路大震災で亡くなった方の死亡原因は、圧迫死が大部分を占めていて77%、焼死・熱傷が約1割です。また、圧迫死77%の内訳は、即死である圧死が9%で、61%が窒息死であったと報告されています。つまり、8割の方は、がれきや家具の下敷きになりながらも、しばらくは生きていたということで、早期に救出し、医療につなげていれば助けられたとの反省があります。生存率は発災から救出までの時間に左右される。発災後、救出し、医療にゆだねるまでの時間を短縮することが求められます。
一方、負傷者の多くは、家具等の転倒・移動・落下によるものが多く、中には救出された後にクラッシュ症候群を発症し死亡した例も報告されています。クラッシュ症候群は、人体の筋組織が圧迫をうけて発症し死に至るもので、1時間程度の圧迫で発症した事例が報告されています。このことからも、早期の救出と医療にゆだねるまでの時間を短縮することが、防災計画の目標となります。
【この地域の被害想定】
旧被害想定(2012年)では、町田市の死傷者は、死者267人、負傷者4,189人となっています。当時の人口が420,304人なので、人口の約1%の方が被災すると予想しています。
一方、旧被害想定をもとに町田市が分析した、玉川学園地区で倒壊や焼失で住む家を失った人が町田第五小学校(指定避難所)に避難すると予想した人数は3,738人で、対象となる地域*(玉川学園1丁目~4丁目、5丁目の一部、7丁目の約半数、ほか)の人口(約11,300人)の33%になります。この避難率(対象人口に対する避難者数の割合)33%は、町田市全体の避難率約12.6%に比べ、2.6倍となります(町田市全体の避難者数52,939人)。残念ながら、市内の地域ごとの死者や負傷者の人数は分析されていません。そこで、町田市防災課の計画担当の方に相談したところ、被害規模について地域特性が反映されている避難率から死傷者数を推定することは一応の目安となるとのことで計算した結果、「対象となる地域*」で死者および重傷者が約50人、その他の負傷者が約270人となりました。最悪、これだけの人々の救出救護と医療救護拠点までの搬送が必要となります(死亡の判断は医師が行うため、死者も意識がない重傷者として扱う必要があります)。
新被害想定(2022年)では、町田市の死傷者は、死者121人、負傷者2,434人となっています(多摩東部直下地震:冬・早朝、風速8m/s)。町田市全体の死傷者の数は減少しているものの、地域ごとの人数が分析されていません(指定避難所ごとの避難者数は来年度に公表の予定)。新被害想定で判明した延焼被害によっては、この地域の死傷者数がどうなるか不明です。
尚、玉川学園8丁目、東玉川学園1丁目~4丁目についても、地勢的には、先に述べた「対象となる地域*」と大きな違いはなく、同程度あるいはそれ以上の被害が想定されます。特に、玉川学園8丁目は木造家屋密集地域に指定されているので、被害規模は他の地域より大きくなると予想されます。
【救出救護および搬送】
町田市地域防災計画第3章第6節第4(救助救急活動)の3には、「市民及び事業所は、・・・防災関係機関が現場に駆けつけることが困難とみられる場合、救出された者を最寄の災害拠点連携病院・震災時医療拠点等の医療救護拠点まで搬送することにも協力するものとする。」とあります。
先の【対応する災害】や【震災被害】でも述べましたが、公助の遅れによる死者の増加を抑えるために、地域住民による救出・救護および搬送が必須となります。
【震災時の医療】
東京都および町田市では、大きな震災時に医師や看護師などを行政が定めた医療救護拠点に参集させるとしています。市中のクリニックには医師がいない状態になります。
町田市地域防災計画では、町田第五小学校・指定避難所は「準救護連絡所」(局地災害の場合、必要に応じ開設)となっています。一方、近隣の成瀬台小学校・指定避難所は「震災時医療拠点」となっており、発災直後医師・看護師が派遣され開設されます。
従って、玉川学園地区では、住民が救出した負傷者を災害拠点連携病院である「あけぼの病院」まで搬送しなければなりません。
尚、玉川学園町内会では、2018年の市長と語る会やそれ以降の市政懇談会で町田第五小学校を「震災時医療拠点」とするよう要望しています。
次回は、以上述べた現状分析をふまえて、地域組織(自主防災組織、町内会・自治会)や地域住民が発災時に自分たちの命や町をどのように守るか、何をなすべきかを記述する予定です。
-自主防災隊長会議-