たま坂ことの葉 -書道のことIII-

 今回は書道具の話である。古来、文人墨客は筆、硯、墨、紙を「文房四宝」と称して尊び、優品を求めて止まなかった。先ず筆だが、作品の出来に直接影響する筆の選択は重要で「弘法は筆を選ばず」という格言は額面通りには取れない。但し筆は消耗品で如何に高価な物でも使用による劣化は免れない。穂先の原料は鼬、羊、狸、馬、兎、猫等の獣毛で用途により様々な動物の毛が使われるが、一般的に楷書のような固く鋭い書体には鼬系が適し、行、草書のような柔らかい表現には羊系が適するとされるが、両者共に良質のものは現在国産では入手できず、中国等からの輸入に頼っている。前者は北方のロシア国境地区辺りに棲息するコリンスキー、ウイーゼル種などが使われ、後者は羊と言っても実は江南に棲息する山羊のことで雄の胸毛が良いとされ、極く細い良質のものは細光峰と呼ばれ珍重される。因みに、筆を造る技術は今や日本が一番で、就中、広島の熊野町が質量共に群を抜いている。日本の筆生産8割のシェアを持ち、書道人口の減少によって一時は産業衰退が危惧されたが、近年化粧筆の世界的潜在需要を掘り起こして衰微に歯止めを掛けた。次に硯だが、之は使い方次第で略永久に使用可能であり、一生物のつもりで高価でも良質なものを揃えたい気になる。中国も端渓(広東省)や欽州羅紋(江西省)といった折り紙付の名硯の産地が健在だが、日本にも決して見劣りしない天然石を切り出した硯がある。実用本意の無骨な作りながら高品質の玄昌石を原料とする雄勝(宮城)と装飾的な見事な彫りと詰んだチョコレート色の地が美しい赤間(山口)を挙げて置く。 (YK)