防災・減災を進める原動力は何かと問われたら皆さんは、どう答えますか。
防災・減災を進める原動力は、個人個人の防災意識です。防災意識を高めるには、「災害」に向き合い、「災害」に関する様々な情報を得ることです。更に、地域や自宅の状況を防災・減災の視点で把握することです。
1990年代から自助・共助・公助という言葉が様々な分野で使われています。防災の分野で使われ始めたのは2000年頃だといわれています。1995年に発生した阪神淡路大震災では多くの方が被災しました。その被害状況や救助活動などに関する調査から、生き埋めや閉じ込められた際の救助の比率が「自力で」34.9%,「家族に」31.9%、「隣人に、友人に」28.1%、「通行人に」2.6%、「救助隊に」1.7%、「その他」0.9%と報告されています(「1995年兵庫県南部地震における火災に関する調査報告書」(平成8年11月日本火災学会)より)。
更に、「自力で」「家族に」「隣人に、友人に」「通行人に」を自助・共助、「救助隊に」を公助と分類しています。阪神淡路大震災では公助である救助隊の駆けつけが大幅に遅れました。この傾向は、その後の大震災でも改善されず問題になっています。図1の赤の折れ線グラフ(生存率の推移)を見てください。発災時からの時間経過と共に生存率が大幅に減少していきます。救助が遅れると助かる命も失われていきます。
図1
【発災後の防災・減災】
阪神淡路大震災などの教訓から、自分たちの命を守るためには、公助に頼るのではなく、自助・共助に力点を置いた取り組みが必要となります。
「自分たちの命や地域は、自分たちで守る」
どのような取り組みが必要でしょうか。
例えば、発災直後の混乱した状況の中で、生き埋めや閉じ込めあった人々の救出を適切に行うためには、下記の3つが必要となります。
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- その家に誰が住んでいて、在宅している可能性があるのかといった情報
- 救出側(自主防災隊や地域住民)の人数やスキル
- 救出に必要な資機材、負傷者を医療機関に搬送するための資機材
このうちA.は、近隣住民であれば知っている可能性が高く、阪神淡路大震災では近隣住民の情報で多くの方が救出されています。B.やC.は普段から地域の防災力を高める努力が必要となります。阪神淡路大震災の事例集には、「人数はいたが、救出のノウハウがなく、救出に失敗した。」「救出用資機材が不足し、多くの者が素手の状態であり、救出に長い時間と大きな労力を要した。」「救出活動には大きな労力がかかり、危険も伴った。市民による救出作業中に火災が迫り、生き埋め者を置いて避難しなければならなかった。」と多くの反省すべき指摘が記載されています。
【普段からの「備え」による防災・減災 その1】
そもそも、「生き埋めや閉じ込め」はなぜ起きるのか、いくつか原因があります。
- 建物や擁壁などの耐震性に問題がある場合
- 建物の立地に問題がある場合
- 家具等の転倒・移動・落下対策が不十分
- 実質的に閉じ込めに近い状況として、大きな揺れで転倒または脚立や階段から落下し負傷し身動きできなくなった
このうち、1.と2.と3.は、地域住民による対策が可能です。特に、建物については近年の建築基準法の改正(1981年、2000年)により耐震性が増しています(図2)。古い建築基準法のもとで建てられ建物については、耐震診断を受けて、耐震化を行うことが可能です。
図2 木造の建築時期別の被害状況(国土交通省、熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会 報告書より)
一方、大震災における負傷者の大半が、家具等の転倒・移動・落下によるものでした。
家具等の転倒・移動・落下対策については下記のサイトにアクセスして対策方法を確認して対策を行うことができます。
東京消防庁 家具類の転倒・落下・移動防止対策ハンドブックの紹介ページ
https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/hp-bousaika/kaguten/handbook/index.html#funiture
家具類の転倒・落下・移動防止対策ハンドブックのURL
https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/hp-bousaika/kaguten/handbook/all.pdf
《共助について》
公的機関の救助が望めない場合の自主防災隊の救助活動は、下記の通りです。
- 「生き埋めや閉じ込め」の救出・救護。ただし、倒壊した家屋からの救出については、二次被害の恐れのある場合は対応できません。また、自主防災隊が保有する資機材では対応できない場合もあります
- 拠点病院・拠点連携病院・医療拠点への負傷者の搬送
【普段からの「備え」による防災・減災 その2】
地震被害は「生き埋めや閉じ込め」だけではありません。地震火災による人的被害、家屋の焼失もあります。地震火災による被害は、地震発生時の季節や時間帯によっても異なりますが、火災は関東大震災や阪神淡路大震災のように甚大な被害につながります。平時においても火災は酒田大火、糸魚川大火のように大きな被害が発生しています。
地震火災の半数以上は、電気系統からの出火でした。更に、冬季であれば地震動により燃えやすいものが暖房器具に落下するなどして出火しています。
電気系統で多いのは漏電です。地震動により家具などが転倒・移動し、電気製品や電源コードなどを損傷することで漏電します。電気系統の火災は復電時にも発生します。
出火防止の効果的な対策の主なものは、次の通りです。
- 感震ブレーカーの設置です。「震太郎」のような感震ブレーカーは、復電時にも有効です
- 家具等の転倒・移動・落下防止対策です。電気製品や電源コードを守ります
- 暖房器具の周りに燃えやすいものを置かない対策
また、出火した場合に備えて、次の備えも重要です。
- 家庭用火災警報器の適正な設置
- 消火器の設置
- 消火器の適切な使い方や効果的な消火方法を会得するために、年に1回以上は地域の防災訓練に参加する消火活動は、時間との勝負です(出火から1,2分で消火器では消火できない状態になります。木造家屋の場合、出火から20分で全焼状態になります。)。
従って、A.の家庭用火災警報器によって早期に発見し、B.の消火器によって消火します。街頭消火器では、間に合いません。自宅に消火を設置することが重要です。更に、C.は不可欠です。消火器の放射時間は、10秒から15秒程度です。操作を誤ると、満足に消火できません。短時間に消火する方法(効率の良い消火方法)を身に付けないと消火に失敗します。地震火災の場合、消防車が来ることが期待でないので消火器による消火に失敗すると確実に全焼します。
《共助について》
自主防災隊の地震火災に対する主な活動は、下記の3点です。
- 火点の風下地域の救助(救出)活動
- 火点の風下地域の避難誘導
- 延焼防止のための消火活動
これらの活動を行う上での重要課題は、下記の通りです。
- 消火資機材の不足
- 自主防災隊メンバーのスキルアップ
- 自主防災隊メンバーの不足
当地域は、丘陵地です。標高も100mを超えるところもあり。従って、ポンプによって加圧して供給されています。大きな地震が発生すると水道管の損傷だけでなくポンプ施設の被害によっても、水圧の低下が予想され、最悪は断水になります。2023年度の東京防災学習セミナーで指摘されたように、水圧が低下しただけでも当地の自主防災隊がこれまで配備し訓練していたスタンドパイプのよる消火活動はできなくなります。その対策として可搬型消防ポンプを導入し消火する体制を構築しなければなりません。2024年3月に町田消防署で地区自主防災隊向けの防災リーダー講習会が実施され、可搬型消防ポンプを使った消火訓練(体験)が行われました。今後は、可搬型消防ポンプを使った消火訓練を積み重ね、可搬型消防ポンプの導入に向けた準備を進めていきます。