要石No.9 

 

今回は、玉川学園・東玉川学園地区防災計画について説明します。
 玉川学園・東玉川学園地区防災計画(発災編)は、自主防災隊長会議で策定され2023年12月の玉川学園町内会幹事会で承認され、玉川学園・東玉川学園地域の地区防災計画(以下、地区防災計画と略す)として制定されました。地区防災計画は、発災時における地域住民や自主防災隊が実施すべき基本的な活動が網羅されています。

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《地区防災計画作成の端緒》
地区防災計画を玉川学園・東玉川学園地域(以下、当地域と略す)という比較的大きな地域を対象に作成しました。そのきっかけは、2022年5月に東京都が公表した「首都直下地震等による東京の被害想定報告書」の地震火災による焼失棟数分布の図(図1)です。


図1

 この図は、その後、Webに東京被害想定マップとして公開されました(図2)。当地域は図をみても分かるように、震災時の焼失棟数が多摩地域では最も多い地域となっています。焼失棟数は、木造家屋の密集度・築年数・立地(家屋が建っている土地の傾斜度など)や消火活動に支障のある条件(道路幅など)などによって決まります。



図2

 マグニチュード7クラスの地震火災は、同時多発的に発生し、消防機関の対応能力を超えることが分かっています(町田消防署が保有するポンプ車は11台しかありません)。毎年開催している防災勉強会等の場で町田消防署員から発せられる言葉は「首都直下地震などの大地震が発生した場合、住宅地で火災が発生しても消防は対応できません」。
従って、このような地震火災に対しては、地域住民と自主防災隊が協力して対処しなければなりません。地震火災への対応は、消火活動に留まらず、風下側の住民の避難誘導(歩行が困難な避難行動要配慮者の搬送も伴います)、更に、地震被害(家屋の倒壊や家具等の転倒・移動など)による閉じ込めや負傷などで動けなくなった人々の救出・搬送を行わなければなりません。玉川学園町内会は8つの地区からなり、それぞれに自主防災隊が結成されています。地震火災にたいする活動は、一つの地区自主防災隊の対応で完結するとは限りません。まして、延焼火災となると近隣の自主防災隊と連携して対処する必要があります。このようなわけで、当地域全体をカバーする地区防災計画が必要となりました。もちろん、地区独自の地区防災計画を作成する必要性はあります。
《当地域の地震被害》
当地域に大きな被害をもたらす地震は、首都直下地震(多摩東部地震)だけではありません。皆さんもご存じのように当地域は地理的に神奈川県に大きく食い込んでいます。従って、神奈川県が公表している首都直下地震の被害想定も考慮に入れなければなりません。例えば、伊勢原断層帯(逆断層)を震源とする地震です(2023年11月16日に発生した地震では伊勢原断層からの直接地震動が観測されています)。
ある調査によれば、当地域では、1981年以前の建築基準で建てられた木造住宅を中心に110棟余りの家屋が倒壊すると推定されています。更に、倒壊した家屋からの出火件数は30件余りとなります。倒壊家屋からの出火は、家人による初期消火が困難なため延焼につながるおそれがあります。※出火後2,3分以内に消火器などによって適切な消火ができないと炎上火災となり、延焼火災へと発展します。
一方、過去の大きな震災では、倒壊しなかった家屋からも出火しています。出火しても適切な初期消火によって消火できますが、転倒・移動した家具に阻まれ消火できなかったり、消火器の操作に不慣れだったり、発見が遅れたり、そもそも消火器が無かったりした場合、初期消火に失敗する可能性が高くなります。初期消火の失敗率は震度6では、5割程度です。
また、当地域で家屋の倒壊や火災、家具などの転倒・移動・落下等によって負傷する人数は90人余りと推定されます。
玉川学園町内会の8つの地区(第一地区から第八地区)に共通して言えることは、どの地区でも少なくても十人前後の人的被害(負傷)と複数の地震火災が同時に発生します。
《主な活動》
当地域で最優先となる活動は、当地域で多発する地震火災への対応です。具体的には、延焼防止のための消火活動と風下地域での救出活動と避難誘導です。
《消火活動》
消火活動では、消火栓(上水道)にスタンドパイプを接続し、更に、ホース、筒先(放水用の器具)を接続し、上水道の水圧を利用して放水し消火します(当地域では、各地区の自主防災隊に2,3基のスタンドパイプを配備し、消火訓練を実施しています)。延焼防止のための消火活動では、複数の筒先を使って、火勢を弱めると同時に隣家に対しても放水し、延焼を防止します。筒先が多ければ、延焼防止効果は高まります。
《消火活動の課題》
延焼防止のためには、今以上に消火資機材を増やす必要があります。
大きな地震では、上水道の水圧の低下や断水となる場合があります。この場合、スタンドパイプは使用できません。これに代わるものとして可搬型消防ポンプを使い防火水槽などの水利を利用することで消火活動が行うことができます(水利(消防水利)とは、消火などに用いる水の供給施設や水源のこと)。当地域では可搬型消防ポンプの導入計画はあるものの、導入に向けた訓練が始まったばかりです。
発災直後の火災に対して、消火活動を行うまでの時間を短縮しなければ延焼を防止できません。火災の早期発見と、消火部隊の早期派遣を実現するための仕組み作りが課題となっています。
《避難誘導・救出・搬送》
また、火災が発生した風下地域での避難誘導については、出火した場所や風向き風速のほか、避難場所(避難広場)までの避難経路の安全確認(道路周辺の火災や土砂災害の有無など)や道路閉塞の有無などの情報を基に、避難経路を判断します。地区内の被災状況や道路閉塞については、発災直後に実施する緊急パトロールの結果を活用します。避難場所が地区外の場合は、避難経路にあたる地区の自主防災隊に問い合わせます。火災に関する情報は近隣の地区と共有することで、協力体制を整えたり、延焼の拡大に備えたりすることができます。
風下地域の救出活動については、二次被害を防止するため、消火部隊から状況報告を共有し、延焼火災に巻き込まれないようにします。
《避難誘導・救出・搬送活動の課題》
避難誘導においては、避難を呼び掛けても様々な理由で本人に伝わらないことがあります。更に、自力で動けない方もいます。避難行動要支援者の事前把握が必要になります。
自力で動けない方を搬送する資機材も必要になります。特に、当地域は急坂や階段もあり、避難場所(避難広場)までの長い道のりを搬送する必要があり、搬送者の負担を軽減するような搬送資機材を用意する必要があります。
《活動に必要な通信手段》
マグニチュード7クラスの地震が発生すると電話回線やネットワークは使用できなくなります。そのため、地区ごとに設置される自主防災隊本部や各活動部隊(緊急パトロール、消火部隊、避難誘導部隊、救出部隊火災など)相互の情報伝達は、簡易無線機・登録局(以下、無線機と略す)を使って行います。例えば、発災直後に行われる緊急パトロールでは、緊急性の高い情報(火災・土砂災害・倒壊家屋・道路閉塞などの状況)は無線機を使い地区の自主防災隊本部に伝達します。また、火災などの情報は近隣の複数の地区自主防災隊本部間で無線機を使い情報を共有します。先ほど説明した風下地域での救出活動においては、二次被害を防止するため、消火部隊からの無線機による状況報告を確認しながら活動します。火災現場一箇所に複数の消火部隊が投入されますが、騒音のため、無線機による情報伝達が必須となります。
《まとめ》
地区防災計画では、防災リーダーが各活動部隊を指揮します。防災リーダーは、部隊に参加した地域住民を指導しながら、活動を進めます。そのため、平時の取り組みでは、防災リーダーの育成が重要になります。防災リーダー向けの専門性の高い講習や訓練が行われることになります。
更に、地区防災計画には、必要な資機材や備品などが網羅されています。今後も不足している資機材の充実や資機材を格納する防災倉庫の増設を進めていきます。
地域住民と共に行う防災訓練の項目が増えると考えられます。例えば、火災からの避難訓練を図上訓練の形式を取り入れて、住んでいる地域の地図を使い、出火した場所や風向き、道路閉塞の箇所を様々に変えて、適切な避難ルートを話し合う訓練や様々な活動シーンを設定して部隊間や本部などとの通話を行う訓練、新しく増えた資機材の取り扱いを体験する訓練など、新しい取り組みも増えていきます。これまで行われてきた防災訓練のほかに、より実践的な訓練が加わることになります。

 地域住民のご理解とご協力が無ければ、防災活動は進みません。また、地域の防災力を高める第一歩は、ご近所同士のコミュニケーション(お付き合い)を良くすることです。近隣同士が仲良くなることで、近隣への思いやりが生まれ、ご近所の異常にいち早く気づく「気づき」が培われます。その「気づき」は、安否確認や火災などの早期発見にも役立ちます。最後のお願いです。わが身や家族を守るために地域の防災訓練に積極的に参加してください。

 諸般の事情により「要石」の連載は、今回で終了となります。