たま坂ことの葉 -コントラバス-

ダブルベース、弦バス、ウッドベース、アップライトベース、低音大提琴・・・。
これらすべて、「コントラバス」という名称の楽器と同じものです。
お国、ジャンル、シチュエーションによって名前が異なる訳ですが、大別すると、ジャズ、ポップス、吹奏楽、クラシックなどでその名称が変わってきます。
そもそも音域を表した言葉が、いつの日か楽器そのものの名前に。「バスのバス」という意味のこの楽器、例えば、チェロ(ヴァイオリン属の縦型に奏する楽器)はベース(バス)の音域を弾く楽器なのですが、同じ楽譜を見ているのに、コントラバスはチェロの1オクターブ下の音になってしまいます。「バスのバス」だからです。
楽器が大きいので、オーケストラでは舞台の上手か下手、客席から舞台に向かって右手か左手のどちらか端っこに生息しています。それは、ヴァイオリンやヴィオラそしてチェロの弦楽器奏者の視界を妨げない為です。なぜならば、身の丈2メートルの楽器ゆえ、舞台の中央に位置していたら、コントラバスの「林」で指揮者を覆ってしまいかねないからです。オーケストラで弾くときは、バーカウンターのスツールの様な椅子、通称「バス椅子」に座って奏します。
肩に乗せて顎で挟むヴァイオリンとヴィオラ、そして膝で挟むようにして縦に構えるチェロ。右手に持つ「弓」は木と馬の毛で構成されていますが、木の部分を上から添える様に持ちます。しかし、コントラバスには2通りの弓の持ち方があります。他の弦楽器と同じ様に上から添える持ち方の弓と、下から添える持ち方の弓があり、前者をフランス式、後者をドイツ式の弓(フランチボウ、ジャーマンボウ)と言いますが、前者の弓と持ち方は、いわゆるヴァイオリン属のもの、後者の弓と持ち方はヴィオール属のものと言えます。
ヴィオール属、馴染みのない言葉かも知れませんが、肩に乗せて弾くヴィオラ・ダ・ブラッチョや小型のチェロの様な膝で挟むタイプのヴィオラ・ダ・ガンバといった弦楽器属が中世にもてはやされていました。フランス革命以降は、聴衆が貴族から大衆に代わる事で、演奏会場も広い空間が必要になり、勢い音の大きいヴァイオリン属が隆盛し、脆弱な音量のヴィオール属は影を潜めました。コントラバスは、どちらの弦楽器の流れにも属するものであり、楽器の裏板が平板(フラットバック)になっているコントラバスが見受けられるのも、ヴィオール属の名残と言えます。因みに小生が扱う楽器の裏板は平板(表面は湾曲しています)、弓の持ち方はドイツ式。明治時代に音楽取調掛(のちの東京芸術大学)が開設された際にヨーロッパから招いて教授なさった方が、東ヨーロッパ系の方だったのでしょう。以降、日本ではドイツ式の弓が大半をしめる事になった次第です。