たま坂ことの葉 -能の魅力 続ー
能は難しいと良く聞きます。難解だと感じた方はどのような演目(番組)をご覧になったのでしょうか。もしかしたら“幽玄”を求めて主役が女性の三番目物:さんばんめもの(鬘物:かずらもの、とも言う)でしょうか。これは、慣れない方には動きが少なくて楽しみにくい演目だと思います。
能の演目種類は五つあり、動きが派手な龍神や鬼、天狗が出てくる五番目物(切能:きりのう)の演目をご覧になってください。ダイナミックな躍動を楽しめる筈です。又は、“太鼓入り”の演目を選んでも良いと思います。能の囃子楽器は四つあり、笛(能管:のうかん)、小鼓:こつづみ、大鼓:おおつづみ又はおおかわ、太鼓:たいこ、です。太鼓は演目により入るものと入らないものがあります。太鼓が入るとリズミカルに楽しめる曲が多くなります(例外もありますのでご注意ください)。もう一度トライしてはいかがでしょうか。興味が出て楽しめるようになって来ると“幽玄”の世界も見え始めます。
能公演は“一期一会”が原則で連続公演はありませんので探しにくいかもしれません。おすすめは千駄ヶ谷の国立能楽堂の自主主催公演です。能の演目は基本的に1曲(1番といいます)で疲れず(他に狂言もあります)、液晶画面での字幕表示があるのもポイントです。
能の紹介本はたくさんありますが、入門ガイドとしてならば「マンガでわかる能・狂言」(誠光堂新光社)をお勧めします。この本は興味を持ち始めた素人の立場からの見方で書かれており、イラストと相俟って分かり易い記述です。間違いを防ぐため研究者の監修を受けており安心して読めます。
◇能に親しんで良かったこと〔カッコ内【】は演目名です〕
◇◇旅が楽しくなる
能は名所旧跡を題材としたものが多く、旅行での訪れは感慨が深まります。奈良や京都に行けば、嵯峨野の野宮神社【野宮】や宇治の平等院の扇の芝【頼政】、大原【大原御幸】、大和の長谷寺(古称は初瀬寺-はせでら)の脇を流れる初瀬川【玉鬘】など多くの名所があるほか、例えば石川県に行けば加賀市の首洗い池【実盛】や小松市の安宅の関所【安宅】などがあり興味も深くなります。
◇◇歴史や物語(源氏物語等)の入り口
能は源平の戦いの逸話や源氏物語から題材を得た演目が多く、能のストーリーに興味を持つと自ずと中世の歴史や源氏物語に入り込んでいきます。平家物語や源平盛衰記を典拠とする演目は【敦盛】、【清経】、【屋島】など、源氏物語からの演目は【葵上】、【浮舟】、【野宮】など多くあります。中には万葉集や大和物語を典拠とする演目【求塚】や古事記・日本書紀を典拠とする演目【絵馬】もあります。
◇◇終点の無い楽しみ
能の世界は、観るだけでは飽き足らず試してみたくなる魅力がありますし、奥が深いことから切り口(入り口)によって枝分かれして入り込んでいきます。例えば、詞章を節付きで読みたくなれば謡:うたい、楽器が気に入れば囃子:はやし、舞が気になれば仕舞:しまい、そしてその組み合わせとそれぞれの世界に進むことになります。その世界に入り込むと一生の趣味の世界となります。勿論、観るだけでも良く、観能が多くなれば世阿弥の花伝書:かでんしょの世界に入って行くことになるでしょう。
謡や仕舞の世界に入ると、謡は腹式呼吸、仕舞は良い姿勢の持続などから健康維持に役立つほか、適度の緊張や頭を使っての活動となることからフレイルが遠のき、健康にプラスにもなります。また、ひな壇の五人囃子の並べ方がわかるし、“脇役”や“お白州”の語源もわかります。